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概要

1.はじめに

 本建白書は、日本における医療・医学、情報コミュニケーション技術、消費者を対象としたネットビジネス等の事業に携わる企業が集い発足した「健康情報システム協議会」における討議を基に、有志一同により草案されました。本建白書において、健康情報とは、個人の医療・健診・検診・服薬情報、ゲノム情報を含むバイオロジックデータ、また健康に影響を及ぼす生活環境関連情報といった継時的かつ総合的な生命情報を指します。

 昨今、ICT、生命科学、ゲノム等の解析技術、大規模情報の多角的統計解析能力等は、著しい発展を遂げています。国民皆保険制度を始めとする諸制度のもとで、様々な種類の質の高い健康情報が存在し、かつ高度なICT技術を保持する我が国は、健康情報を最先端のICT技術を駆使して効果的に活用することで、現代及び未来における我が国、更には世界の人々の一層の健康の促進を図ることができる、ユニークなポジションを有しています。

 しかしながら、我が国の諸施策は、このユニークなポジションを戦略的に活用するには至っていません。今日のコホート研究、バイオバンク、臨床研究、並びに治験は、限られた資源の中で、対象疾患・地域・期間等が限定されており、臨床・創薬・産業応用を意識した一元的な大規模情報を蓄積する仕組みは、整備が進んでおりません。特にゲノム情報については、解析技術が急速に進歩し、個人が手軽にアクセスできる時代を迎えようとしていますが、その機能や役割については未解明な点も多く、広く健康・医療に役立てるには専門家による科学的エビデンスに基づいた解釈が必要不可欠です。また、このような科学的側面に加えて、倫理的・法的・社会的側面においても解決すべき課題が残されています。

 また現在、我が国においては、世界が経験したことがない速度で少子高齢化が進み、医療・介護費を含めた厚生労働省の社会保障関係費も毎年1兆円規模で増加を続けています。政府債務残高がGDPの2倍を超え、更に拡大を続けている厳しい財政状況に鑑みますと、従来型の医療政策では現在の健康・医療水準を将来にわたって維持することができないのは明白であり、喫緊の対策が求められているといえます。

 我が国の置かれた財政状況や、現在持っている高品質な健康情報・ICT技術といったリソースを踏まえると、我が国は、健康情報の統合的な集積と分析に基づいた諸施策を講じることにより、今こそ世界の中で「一歩前へ」前進することが求められているといえます。

 本建白書は、「国民がより主体的に自らの健康増進に参画し、適切な責任を担う社会」を実現し、更には、自らの健康のみならず、次世代の健康を支える医科学研究への理解と協力を推進する社会に我が国を変えていくべく、産業と政策の協働のための枠組みを提言するものです。

 健康情報システム協議会は、新しい国家と秩序を創った明治時代初期の古事に倣い、国家的な提言をする趣旨から「建白書※」として、以下を提言いたします。

2.提言内容:「健康情報信託(仮称)」の創設

2.1 ミッション

 個人の健康情報を適切に共有し利活用することで、国民の医療・疾病予防の最適化と効率化、健康維持・増進に貢献します。

2.2 期待される効果

 健康情報信託を通じた透明性の高い健康情報の管理・共有により、改ざんや捏造のない健康情報の活用を促進することで、以下のような効果が期待されます。

 (1) 国民の健康寿命の延伸
 五大疾患(がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)や希少疾病をはじめとした様々な疾患の適確な早期診断方法と、症状が現れる前に取組める予防対策を確立・普及し、国民の健康寿命延伸を実現します。
(2) 最適アクセスの促進
 患者・個人(未病者)が、自らの健康状況を的確かつ容易に把握できる環境を整備し、個人健康価値(個人の健康に関する価値観)に基づく最適な医療・介護・予防のアクセス・選択を促進します。
(3) 医療・介護の質の向上
 行政や医療・介護提供者が、健康情報信託の厳格な仕組みのもとで個人の健康情報にアクセス可能となることにより、医療・介護の質が効率的・効果的に高まることになります。
(4) 医療イノベーションの創出
 医学研究者・民間事業者は、信頼性の高いエビデンスと国民の参加に基づく健康情報信託の仕組みにアクセスすることで、新たな医療イノベーションを創出することが可能となります。また創薬活動においては、大幅なコスト削減と開発期間の短縮、並びに開発中止等のリスク回避を実現し、我が国の創薬事業の競争力を高めることにつながります。
(5) 新たな産業セクターの創出
 ヘルスインフォマティックスの研究開発基盤を形成し、新たな産業セクターを誕生させます。これにより、総合的にヘルスケア産業の人材育成と雇用の拡大効果が見込まれます。
(6) ヘルスケア産業を通じた国際貢献
 健康長寿国日本から、日本発先端医療技術を含むヘルスケア産業全般を国内外に拡張し、高い経済成長と国際貢献を成し遂げます。

2.3 具体的提案

 「健康情報信託(仮称。以下「健康情報信託」という)」を永続的な基盤として、日本に創設することを提案します。健康情報信託は、国民健康情報機構(仮称)と統合解析センター(仮称)、および情報提供マネジメント室(仮称)から構成されます2部参照

 国民健康情報機構は、国民皆保険制度下に創出される診療記録(カルテ・画像・検査値等)服薬記録、レセプト情報、検診/健診記録等を収集し、各個人(被保険者)に個人健康情報アカウントを提供します。各個人は個人健康情報アカウントに保管されている個人の健康情報を自由に閲覧でき、医療機関での診療や薬の処方の際に利用し安全で効率的な医療を受けることに活用できます。各個人はまた、これらの情報を、利便性の高い様々な健康・医療関連サービスを得る際に利用することができ、これにより個人に適した健康管理ができるようになります。

 国民健康情報機構で収集された個人健康情報は、匿名化(連結可能匿名化)されたうえで、大規模情報として統合解析センターに提供されます。統合解析センターが管理する統合解析用データベースは、定められたルールに基づき医学研究者・民間事業者により利活用され、そこから得られた知見や成果は、より付加価値のついた情報として、統合解析センターが保管する付加価値健康情報データベースに還元されます。

 健康情報信託は、日本の国民皆保険制度、ならびに日本の文化ともいえる絆や助け合いを活かし、国民が主体的に、自らの健康のため、また広く社会・次世代の生命・健康のために、健康情報を継続的に利活用できる仕組みとして、国民のみならず医療機関、自治体、保険者、さらには海外からも理解を得て、人類の健康の向上に革新的な価値を創出できるものと考えています。

3.健康情報信託の実現に向けての政府へのお願い

 ここに提案する健康情報信託の実現に向けては、様々な法令等の整備、ステークホルダー間の対話、財源の確保など、中長期的な準備が重要と考えられることから、まずは国家戦略特区、先端的医療施設、既存のコホート研究・臨床研究・治験との融合を活用したパイロットプロジェクトでの検証が有益と考えます。パイロットプロジェクトの実行、並びに健康情報信託の創設に向けて、早急にステアリングコミティを立ち上げることが必要となりますが、健康情報信託は永続的な社会基盤として確立されることが望ましく、医療関係者も含めた産官学民の連携が重要であります。

 ステアリングコミティの立ち上げに先立ち、産業界としては、幅広い賛同企業よりメンバーを募ります。産業界がリードする産官学民連携ステアリングコミティには、本建白書に提案する分野の施策を取扱う関係各省にも参画して頂き、個人の健康情報取扱いに関する不適切な情報漏洩や使用の禁止、関連法令の整備や倫理的課題への対応、最新のICT・セキュリティ技術の活用、プロセスの標準化、情報源の可視化、質の担保、情報を取扱う人材の育成等に対する諸制度の整備、予算化検討等について検討を開始できるよう、ご協力をお願いします。

※建白書について
明治23年(1890年)に帝国議会が開催されるまでの間、新生日本の様々な仕組み・制度を創設するために広く国民から政府に忌憚のない意見を提出する手段として活用されました。建白書として最も有名なのは、板垣退助らによる民撰議院設立に関する建白書で、その後の近代日本を創る法令の草案と整備に採用された多くの意見・提案が含まれています。

以 上

2014年6月27日
健康情報システム協議会 有志一同

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