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第1部 背景

第1章 健康情報システム協議会

 本建白書は、日本における医療・医学、情報コミュニケーション技術、消費者を対象としたネットビジネス等の事業に携わる有志が集い発足した「健康情報システム協議会」 における討議を基に、行政の方々の助言、並びに有識者の方々 のご指導とご協力の下、有志一同 により草案されました。健康情報システム協議会は、健康情報システム準備会の月次勉強会を経て、2013年12月に発足し、国民が大規模健康情報を迅速かつ安全に利活用できる仕組みを産業が中心となり提案することを目的に活動してまいりました。

第2章 健康情報と、健康情報の利活用

 ここで定義する「健康情報」とは、個人の医療・健診・検診・服薬情報、ゲノム情報を含むバイオロジックデータ、また健康に影響を及ぼす生活環境関連情報といった継時的かつ総合的な生命情報を指します。

 ヒトゲノムプロジェクトが終了して10年が経過し、その後の研究成果も含めゲノムを活用した医療及び予防医学の実現が示唆されるようになり、その発展の兆しを見せています。このような時代的背景を受け、個人のゲノム情報含む健康情報に基づき、個人に最適な医療・予防を提供し、医療費適正化や健康長寿社会の実現を目指す「個別化医療」「先制医療」の推進が重要な国家戦略として盛込まれ推進されつつあります。また、日本再興戦略(2013年6月閣議決定)では、「データヘルス」が掲げられ、保険者が主体的に、被保険者の健診情報・レセプト情報の分析・評価を行い、その結果に基づいて個人の健康増進や医療費適正化に向けたアクションを起こすことが推進されています。

 一方、世界で最も急速に少子高齢化が進む我が国では、医療・介護等の社会保障関連費の増加が著しく、政府債務残高がGDPの2倍を超え、更に拡大を続けている我が国の厳しい財政状況に鑑みると、従来型の医療のみでは国民の健康と医療水準の維持は困難となることは明らかです。

 このような状況の中で、我が国が世界に先駆けて取り組むべき改善策の一つとして、国民が主体的に自らの健康増進に参画し、健康に対する適切な責任を担う社会の実現が提唱されており、そのためには個人が自らの医療記録、健診/検診記録、服薬記録等を統合的に活用する意義が高まっているといえます。がん対策基本法(平成18年6月23日法律第98号)には、国民の責務として、「国民は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣が健康に及ぼす影響等がんに関する正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、必要に応じ、がん検診を受けるよう努めなければならない。」とあり、医師等の責務として、「医師その他の医療関係者は、国及び地方公共団体が講ずるがん対策に協力し、がんの予防に寄与するよう努めるとともに、がん患者の置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切ながん医療を行うよう努めなければならない。」と定められています。個々の国民が主体的に自らの健康促進に参画し、医療関係者はこうした国民と共に適切なソリューションを見出していくという協働型モデルは、がんに限ったものではなく、医療・介護等の社会保障関連分野において共通に追求されるべき価値観であると考えます。

 こうした取り組みの中で収集された、個人のゲノム情報を含む健康情報は、単に個人自らの健康維持・増進への活用という枠組みを超えて、精度の高い診断技術の開発や新薬開発、ひいては国民医療の最適化・効率化や疾病予防等に裨益するところが大きいものが期待されます。そしてそれらは同時に、医療技術・医療サービスの質向上と新たな健康・医療関連サービスの創設・育成の基盤となる、我が国の貴重な共有財産であるとも位置づけることができます。

 これまで我が国では、医学研究分野において、日本人を対象としたゲノムコホート研究が各方面で企画・立案され、各省の事業費や科研費といった様々な公的財源により実施されてきました。しかしながら、いずれも対象疾病や対象群あるいは対象者数や地域が限定的である上、研究参加者の同意内容や収集・保管されている情報/データが統一・標準化されていない等の理由から、これらを統合して利活用することは困難な状況です。同時に、その多くが医学研究や試験的プロジェクトであるため、本来は長期間継続されるべきものであるにもかかわらず、一定期間を経て資金支援が無くなると終了せざるを得ない等の課題もあります。近年では、一部の自治体や地域等では地域住民の医療記録、健診/検診記録、服薬記録等を一元管理し、地域の医療機関で活用するためのシステムの開発と運用が試されてはいますが、一元管理された個人の医療記録等は個人が自ら利活用することが不可能な場合が殆どです。さらにはゲノム情報含む健康・医療関連情報の統合解析を相互一体的に蓄積・推進する仕組みがないため、科学的エビデンスに基づく診断・予防法の開発に向けた産業界との具体的な連携や取組は困難です。

 個人のゲノム解析・解釈情報や健康・医療関連情報は、扱い方によっては差別につながるという懸念もあります。これらの情報には、健康被害及びその血縁者・子孫にまで影響を及ぼす機微な情報を含んでいることから、医学研究・産業応用に向けて広く利活用されるためには、関連する法令の整備及び倫理面での措置、さらには国民の理解等を得るための啓発が重要となります。しかしながら、その解決と実施に向けた方針はいまだ明示されていない状況です。

 以上のような我が国の現状を踏まえ、個人の健康・医療関連情報及び将来的にはゲノム解析・解釈情報を含む健康情報を統合的に収集し、これを様々な分野で安全かつ適切に利活用し、国民医療の最適化・効率化や疾病予防に資する公的かつ国民が主体となる制度枠組みとして、本建白書は「健康情報信託」の創設を提案します。

第3章 ミッションとビジョン

 健康情報信託のミッションは、個人の健康情報を適切に共有し利活用することで、個人及び国民の医療・疾病予防の最適化と効率化、健康維持・増進に貢献することにあります。

 健康情報信託は、個人の健康情報を一括して保存管理し利活用の促進を支援する統合型の情報基盤です。英国におけるナショナルデータベースのように、国民医療の最適化・効率化や疾病予防のための社会インフラとして構築されることを目指すものです。

 各個人の健康情報は、我が国特有の医療保険制度の理念に倣い、現在の国民皆保険制度に加入しその恩恵に預かる全ての個人(被保険者)を対象に健康情報信託が収集し一元的に保管されます。保管された健康情報は、個人が自らの医療、健康維持・増進あるいは豊かな生活設計のために活用することができる仕組みです(一次利用)。また同時に、これらの健康情報は、「信託」の理念に基づき、匿名化され、国民全体の生命を守る様々なサービス/事業として二次的に利活用されることを想定しています。これを実現するためには、安心・安全を重視した厳格な情報管理体制が不可欠であり、産官学民の協力体制はもちろんのこと、十分な予算措置等を必要とします。また、健康情報信託自らは、医療提供やヘルスケア産業などの事業は営まず、一次的・二次的な利用の方法及び手段を強制する機能を持たないものとします。健康情報信託は、自らの使命を正しく遂行するために、データベースを利活用する個人、医療提供者、医学研究者、事業者等による、違法あるいは不正なデータベース利用を防止する仕組みを管理・運営する義務を負うものとします。

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