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第3部 課題

 ここに提案する健康情報信託を実現するためには、様々な法令等の整備、ステークホルダー間の対話、財源など、中長期的な準備が必要であるため、まずは国家戦略特区、先端的医療施設、既存のコホート研究・臨床研究との融合を活用した、パイロットプロジェクト での検証が有益であると考えます。各プロジェクトは、主催者となる企業の連合体と、協業パートナーである国家戦略特区や先端的医療施設によって独自に展開されますが、将来的に日本において健康情報信託を創設するにあたっての検証という目標を共有します。健康情報信託は永続的な社会基盤として確立されることが望ましく、医療関係者も含めた産官学民の連携が重要なことから、本建白書に提案する分野の施策を取扱う関係各省にも参画して頂き、個人の健康情報取扱いに関する不適切な情報漏洩や使用の禁止、関連法令の整備や倫理的課題への対応、最新のICT・セキュリティ技術の活用、プロセスの標準化、情報源の可視化、質の担保、情報を取扱う人材の育成等に対する諸制度の整備、予算化検討等について検討を開始することが必要とされます。

第1章 組織・運営形態

 健康情報信託は、我が国の永続的な公共基盤として、国民の信頼と共に透明性高く安定的に運用されることが望ましく、例えば天災など予期されなかった問題が発生したとしても、運営を継続することが重要です。また医療関係者も含めた産官学民の連携が大切であることを踏まえ、先行投資に関わる金銭的、人材的、物質的拠出は、個々のステークホルダーからの貢献を募ることを想定します。

 適切な運営形態を確保するため、貢献比率や人材構成につき更なる検討が必要です。

第2章 ガバナンス、監査、委員会の設置

 健康情報信託の要となる運用に関しては、関連行政による定期監査の対象とすることで、透明性や質を担保します。また、健康情報信託内に、審査委員会を設け、ELSI(倫理的・法的・社会的諸問題)、健康情報品質、二次利用提供、エビデンス認証等をそれぞれの有識者と審査します。

 さらに、不祥事件発生時における責任の明確化、説明責任・対応策等についても検討が必要です。

第3章 質・プロセス・情報源の標準化と可視化

 総務省スマートプラチナ社会推進会議の資料によると、2020年の産業化を目指して、医療、健康分野においては、今年度より、加速モデルの実証事業として、「EHRミニマム基盤モデル」並びに「ビッグデータ解析による健康づくりモデル」が立上ります。また次年度からは深化モデルとして「健康、医療、介護等関連分野での総合的データ連携モデル」や「ICT健康住宅モデル(安心できる生活環境)」が計画されています。

 このような先進的な活動と平行し、より創薬開発の促進、個別化医療の実現、予防・先制医療の確立に繋がるデータを、質・プロセス・情報源が標準化、並びに可視化(例えば、どの検査会社で、どのSOPを使用し、いつ創出した等)された環境で蓄積することにより、2020年に産業化されるデータベースの価値が飛躍的に高まることが期待されます。

 処方、注射、検体検査結果、調剤情報、患者情報などの収集面における標準化としては、診療記録、服薬記録は、厚生労働省から委託を受けている医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会)が認定したデータ通信用標準フォーマットおよびコードが優先されることを想定しています。また、撮影画像はDicomまたはJPEGなどのフォーマットによる静止画像を収集します。そして、HELICSで認定されているデータ通信用標準フォーマットは、米国HL7協会が策定したHL7 Ver.2.5、HL7 CDAがベースとなり、データ通信の方法として標準化に向けた調整が進められているXDS/XCA、PiX/PDQが活用されることを前提に考えています。

 このようなデータベースを、将来的に治験の参考或いは参照として用いる場合を想定すると、データベースは国際基準に則った質を担保することが必要であり、ISO15189(臨床検査の品質と精度管理等に関する施設認証制度)、米国臨床病理医協会の施設認定(CAP)、米国の医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律Health Insurance Portability and Accountability Act(HIPPA)等との適合性の検証と可視化が重要となります。全てのデータにこのような高い質の基準を求めることは難しいとしても、現時点から難病やがんなど、特定の疾患に絞った治験、バイオバンク、コホート研究等の深いデータを日本のデータベースに取込んでいくことは有益と考えられます。

 日本においての、遺伝子検査やゲノム情報の取り扱いについては、実臨床での一層の活用が求められており、研究を超えたエビデンスの蓄積、医療としての実用化に向けては、教育や社会環境の整備等課題は多く、「遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティスガイドライン」(NPO法人 日本臨床検査標準協議会(JCCLS))や「遺伝子関連検査の質保証体制についての見解」(日本衛生検査所協会)を、パイロットプロジェクトを通して、実臨床の観点から検証することが第一ステップとして必要とされます。また、個人健康情報アカウントにゲノム情報の入力が伴う場合には、米国疾病予防管理センター(CDC)が提唱しているACCE (analytic validity, clinical validity, clinical utility、ethical, legal and social implications (ELSI))に類似した、分析的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性及び倫理的・法的・社会的な影響の4つの観点について、説明文を添付する等の対策もパイロットプロジェクトの実例を用いて検討します。

第4章 個人からの同意取得(オプトイン/オプトアウト)

 健康情報信託の運営に際して、個人に対する説明や同意取得の考え方や方法論については、国際的な産業競争力の確保という観点から、各国制度とも比較しながら、詳細を検討する必要があります。例えば、英国やスウェーデンでは、国民皆保険制度下、診療情報の提供は自動化されており、参加したくない個人はオプトアウト形式でデータベースから除外されています。英国では、医療サービスのICT化に伴い、各被保険者への書面による説明や、継続的な医療施設のトレーニングや説明会を通して、協力と理解を得る努力を重ねてきた結果、オプトアウトを選ぶ割合は1%弱となっています。一方、オーストラリアでは、2012年から各個人の自発的な登録(オプトイン形式)が推進されていますが、登録数は伸び悩んでいます。日本においても、国民皆保険制度下に創出される診療情報並びに健診情報の提供を、各個人・医療機関・保険者の任意とした場合、十分な情報量を収集するのに莫大な時間と労力がかかることが懸念されます。

 なお、パイロットプロジェクトにおいては、健康情報の収集は、各個人の明確な参画意思に基づくものとすることを想定しています。各個人が主体的に健康管理に取組むには、個人並びに個人の健康をつかさどる人々の意思と動機は必要不可欠であるとの考えによるものです。

 また情報収集においてのオプトアウトや情報の二次的利活用については、対象となる健康情報の種類、匿名化が連結可能か不可能か、同意は包括的なものか個別か、二次利用のトレーサビリティなど、さまざまな観点から十分な洗い出しが重要となります。

 さらに、未成年者や認知症患者等、個人自らが健康情報アカウントについて必ずしも責任ある判断を行うことが期待できない場合、その保護者あるいは後見人が個人健康情報アカウントにアクセスし、当該個人の利益のために活用できること、さらには保護者等が代理で同意した未成年者においては、本人が成人となった時点で改めて個人の理解と同意を得る制度や仕組みも検討が必要です。

第5章 効率的な健康情報収集のための措置

 任意の協力者を対象にパイロットプロジェクトを立上げるにあたって、効率性の観点から、各個人は健康情報信託への健康情報の収集作業を委託できることが望ましいと考えます。健康情報信託は、医療機関や保険者から健康情報を代行入手し、個人健康情報アカウントに転記入力します。初期段階では、CRO(Clinical Research Organization)のCRC(Clinical Research Coordinator)による手作業となりますが、並行してICT企業の協力による早期自動化を図ることを検討します。関連医療機関による協力インセンティブの仕組み(例えば、Pay For Reporting等のインセンティブを組入れることが可能か)・代行機関による委託作業個人情報を取扱う人材の業務品質を担保するガイドライン化・データの標準化方法等、様々な検証を行います。

 また、近年、個人の食生活・睡眠・位置情報等の生活環境情報を取扱う仕組みが多数立ち上がってきていることを踏まえ、多彩な健康情報の取扱に向けた既存の仕組みとの連携の在り方についても検討を要します。

第6節 個人情報取扱に関する法制度化検討

 健康情報信託は、個人の健康促進、並びに次世代の健康を支える医科学研究への協力を目的として、医学研究者・民間事業者等に匿名化健康情報を提供するため、不適切な漏洩や目的外使用を明確に禁止・処罰する法令等を整備する必要があります。目的外使用とは、目的とする医学研究・産業応用に向けた研究開発以外で利用することを指し、例えば雇用者や保険者等により差別につながる取扱は明確に禁じるべきという意見もあります。一方で、交通事故等の救急時・地震等の災害時に、個人の同意を得ずに行政・医療提供者等が個人健康情報アカウントにアクセスをすることが有益である可能性も考えられるため、このような緊急対応においての規定も検討が必要です。

第7章 個人健康情報アカウント毎の個人識別の仕組み

 今日のマイナンバー法で対象となっている医療分野とは、医療保険の「保険給付の支給又は保険料等の徴収」部分であり、診療記録等の医療情報そのものは対象となっていないため、診療記録等の医療情報でマイナンバー(または医療等ID)を利用するにはマイナンバー法の改正等が必要です。「日本再興戦略-JAPAN IS BACK」において、国民の医療・介護情報を管理する「医療情報の番号制度」の導入を図ることが示されました。しかし、医療等IDは、医療機関や薬局、介護事業者などの医療等サービス提供者、医療/介護保険者、国の行政機関/地方公共団体などに対して「診療、処方、レセプト、要介護・要支援に関する情報、ケア記録、介護レセプト情報」等を利用するためのものであり、現段階では民間事業者(学術研究機関、製薬企業等)の利用は想定されておらず、実用化の目途は立っていません。

 一方で、「保険給付の支給又は保険料等の徴収」については、保険給付の支給の前提とした、「国民本人の保険加入確認」も付随業務としてマイナンバーが使えることを意味し、マイナンバーカードの有効活用という観点から考えると、保険証の代わりに、マイナンバーカードを使えるという解釈が可能だという意見もあります。いずれにしても、個人健康情報アカウントの運営には個人識別制度が有益であることから、パイロットプロジェクトを通して検証を進めることが考えられます。

第8節 人材育成

 健康情報信託の運用には、様々な専門性や質の高い業務スキルを身につけた人材の育成が重要です。個人健康情報アカウントで管理する個人健康情報を適正に取扱える人材、個人に対する説明や同意を、倫理的側面に配慮し、かつ還元できるエビデンスを理解した上で、個人とコミュニケーションをとることのできる人材、大規模統合解析を企画・実行しバイオロジックデータの解析・解釈・エビデンス認証を進めることのできるメディカルインフォマティシャン等、産官学一体となって、人材育成に取組むことが必要とされます。

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